離婚して一人になってから、人生が少しずつ楽しくなるまで

40代、まだ途中

離婚した日のことは、今でも覚えている。

その日の朝、いつものように仕事へ行った。

でも、いつもの朝とは少し違った。

「今日引っ越しだね。これで最後なんだね」

そんな話をして、家を出た。

仕事を終えて帰ってくると、家の中はもぬけの殻だった。

物がなくなった部屋を見て思った。

「あ〜。1人だ。何もなくなった」

自由になったような感覚も、少しはあったと思う。

でも、それより強かったのは、

「やっぱり1人なんだ」

という感覚だった。

その日の夜は、特に何かをした記憶もない。

ただ、何もなくなった家に一人でいた。

まず、家の中を変えた

しばらくは、とにかく自分の気持ちを落ち着かせたかったんだと思う。

そして僕が向かった先は――

買い物だった。

今振り返ると、あれは完全に買い物衝動だった気がする。

家具や家電をいろいろ買った。

全部合わせると、たぶん80万円くらい使ったと思う。

ドラム式洗濯乾燥機。

食洗機。

ロボット掃除機。

大きな画面でアニメや映画を見るためのプロジェクター。

ソファも、テレビ台も、ダイニングテーブルも買った。

中には買って失敗したものもある。

使わなくなって売ったものもある。

でも、いろいろ試していくうちに分かったことがあった。

僕にとっていい家電は、

高性能な家電じゃなくて、「僕がやらなきゃいけないこと」を一つ減らしてくれる家電だった。

洗濯物を干さなくていい。

食器を洗わなくていい。

床掃除を任せられる。

面倒なことが一つ減るだけで、家で過ごす時間はずいぶん楽になった。

一人暮らしだから、全部自分でやらなきゃいけない。

だったら、できるだけ自分が楽になるようにすればいい。

そうやって家具や家電を揃えていくうちに、何もなくなった家は、少しずつ自分の好きな空間になっていった。

誰かに合わせる必要もない。

自分が欲しいものを買って、自分が快適だと思うようにできる。

自分だけの空間ができた。

そして、その中に一人でいるとき、ふと思った。

「あれ。僕って何もないや」

家は快適になった。

自分の好きなようにもできるようになった。

でも、その中にいる僕自身には何があるんだろう。

好きな人がいなくなったら、自分には本当に何もないような気がした。

自分は何が好きなんだろう。

何をしていると楽しいんだろう。

そこで初めて思った。

「何か始めよう」

どうせなら、今までやらなかったこともやってみよう。

「第二の人生、楽しむんだ!」

そう思うようになった。

一人でも楽しめることを探した

そんなとき、YouTubeで同年代の人たちが楽しそうに自転車に乗っている動画を見つけた。

一人でもできる。

運動にもなる。

なんか楽しそう。

それで自転車を始めた。

ただ、最初はロードバイクに少し抵抗があった。

あのピチピチのウェアを着る自分が想像できなかった。

そこで選んだのが、ミニベロと呼ばれる小径のスポーツ自転車だった。

街中でも乗れそうだし、カスタムするのも楽しそうだった。

そこから約2年。

毎週のように乗った。

パーツもかなり交換した。

そして気づけば――

僕もピチピチになっていた。

ロードバイクの人たちを見て「俺はあれは着ないぞ」と思っていたはずなのに。

人間、変わるものである。

ただ、いつも走るのはほぼ同じサイクリングロードだった。

そのうち景色にも慣れた。

楽しかったはずのサイクリングが、だんだん修行みたいになってきた。

一般道へ出れば、もっといろんな場所へ行けたのかもしれない。

でも車が怖かった。

結局、

僕はサイクリングロードから巣立つことができなかった。

そして、自転車にはあまり乗らなくなった。

猫と暮らし始めた

一人暮らしを始めてから、猫も飼った。

もともと僕は、どちらかといえば犬のほうが好きだった。

でも一人暮らしで犬を飼うのは難しそうだった。

そんなとき、YouTubeでラグドールという猫を知った。

「可愛い!この子がいい!飼う!」

我ながら単純である。

いろいろ調べて、ブリーダーさんのところへ見学に行った。

最初に会いに行こうと思っていた猫は、僕が行ったときにはすでに家族が決まっていた。

そこで、まだ掲載されていなかった別の猫に会わせてもらった。

最初は部屋の中をウロウロしていた。

そのうち、かごの中で仰向けになって寝始めた。

それを見ながら、

「なんか可愛いな〜」

と思った。

2時間くらい一緒に過ごしているうちに、

「この子と一緒に暮らしたいな」

「この子がこれから成長していくところを見ていきたいな」

そんな気持ちになった。

その日、契約した。

猫が来たからといって、人肌恋しさがなくなったわけではない。

今でも、大好きな人が横にいてくれたらいいなと思う。

でも、

「寂しい」

という感覚はかなりなくなった。

家に帰れば、猫がいる。

一人暮らしではあるけれど、

一人だけの家ではなくなった。

これは僕にとって、とても大きかった。

そして、スノーボードを始めた

離婚後、婚活もした。

かなりした。

でも、うまくいかなかった。

そんな頃、職場の人たちとスキー場へ行く機会があった。

僕はもともとスキーをやっていた。

スノーボードはやるつもりがなかった。

周りから怪我の話を聞いていたからだ。

「スノボは危険。絶対やらないぞ。俺の人生は安全設計なんだ!」

本気でそう思っていた。

でも、一緒に行った人たちがスノーボードをやるという。

スキーにも少し飽きていた。

婚活もうまくいかない。

「新しいことをやってみよう」と思っていた時期でもあった。

だから、一度だけやってみることにした。

それが今では、シーズンになると年間30日くらい雪山へ行く。

……安全設計はどこへ行った。

今では、僕の人生で一番好きな趣味になった。

気づいたら、ずいぶん変わっていた

離婚して一人になった頃、

「僕って何もないや」

と思った。

だから、何かを始めようと思った。

自転車を始めたり。

猫と暮らしたり。

婚活してみたり。

スノーボードを始めたり。

生活を楽にするものを取り入れたり。

やってみて、ハマったものもある。

やめたものもある。

買って失敗したものもある。

婚活みたいに、頑張ったけどうまくいかなかったこともある。

それでも、そういうことを繰り返しているうちに、

いつの間にか人生は少しずつ楽しくなっていた。

そして今は、

「自分に優しく、生きていこう」

と思っている。

しんどいときに、無理して頑張らなくてもいい。

自分がしんどくならないほうを選んでもいい。

これは今では、僕の人生のテーマになりつつある。

まだ途中。

離婚した日の僕が、今の僕を見たらどう思うだろう。

一人になった家で、

「あ〜。1人だ。何もなくなった」

と思っていた僕。

その僕が今では、

冬になれば雪山へ行き、

猫のいる家へ帰り、

興味を持ったことを試して、

失敗したり、やめたりしながら、

それなりに毎日を楽しんでいる。

たぶん、こう思う。

「いや、自分でもびっくり! 別人!」

あんなにインドアだったのに。

人生はまだ完成していない。

結婚したい気持ちだってある。

仕事のことも、これからのことも、まだ分からない。

だから、

まだ途中。

でも、昔の僕に一つだけ言えるとしたら、

これだと思う。

「人生楽しめる人間になったんだね。」

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